水とライフスタイル
塩素とは?残留塩素との違いやミネラルとしての特徴
2020/06/15水道局や自治体のサイトでよく見かける塩素。「水道水と関係のある物質?」という認識の方も多いかもしれません。また、学生時代の化学の授業で習っていても、「どんな物質だったか忘れてしまった……」という方もいるでしょう。 そこでこの記事では、塩素という物質について、多角的な視点で解説していきたいと思います。
塩素とは?
まず、元素記号の塩素(Cl)とは、周期律表の第7族に属するハロゲン元素の一種です。舐めると塩辛い味のする海水中ではイオン(Cl-)、自然界の地殻中にはNaCLの岩塩として存在します。また、工業分野においても、さまざまな塩素化合物が作られています。
塩素の最大の特徴は、マイナスイオンや分子イオンといった構造によって、作用や活用される領域が大きく変わってくることです。
水道水に含まれる塩素
塩素の性質は、単体である塩素分子(Cl2)の特徴を見ていくと非常にわかりやすいです。
塩素分子は、刺激臭のある黄緑色の気体です。そのため一般的には、塩素ガスもしくは塩素と呼ばれています。強い毒性と腐食性のある塩素ガスは、水に溶けやすく強い酸化力もあることから、水道水の処理や、紙パルプ工業などの消毒殺菌にも用いられています。
ここで注意したいのは、実際に水道水に注入されているのは、塩素ガスではなく、次亜塩素酸ナトリウム(NAClO)といった、液体の塩素剤であるということです。メディアで取り上げられることの多い次亜塩素酸ナトリウムは、HIVやHBVなどに効力を発揮できる信頼性の高い消毒薬として、製薬会社や自治体などでも推奨されています。
◇ 残留塩素と塩素の違い
水道局のサイトなどでよく見かける残留塩素とは、水道水の消毒時に注入した塩素剤が、効力を残したまま水道水の中に存在していることを意味します。残留塩素は、消毒効果の状態によって、以下の2つに分類されます。
- 遊離残留塩素:次亜塩素酸イオンもしくは次亜塩素酸として消毒効果があるもの
- 結合残留塩素:アンモニアとの結合によって消毒効果が緩やかになったもの
水中に残留する全ての有効塩素のことを、全残留塩素と呼びます。ここで紹介した3つの残留塩素の関係は、以下の式であらわせます。
・全残留塩素=遊離残留塩素+結合残留塩素
ちなみに、一般的なCL2の塩素ガスや塩化物イオンは、残留塩素とはまったく違う化学物質です。
◇ 残留塩素を含んだ水道水を飲み続けても大丈夫?
世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、体重60kgの人が1日2リットルずつ水を毎日飲み続けても健康に影響がない塩素濃度を5mg/l以下と定めています。一方、日本の場合は、「水質管理目標設定項目と目標値(27項目)」において、残留塩素の目標値は「1mg/L以下」と設定されています。
WHOの数字との比較からもわかるように、日本の水道水は残留塩素が含まれていても安心して飲めるものであると考えられています。
<残留塩素について詳しくは以下をチェック>
水道水に塩素が入っているのはなぜ?除去することは可能なの?
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ミネラルとしての塩素の役割とは?
塩素には、栄養学の分野で注目されるミネラルとしての役割もあります。
◇ 胃液中で働く塩酸としての役割
塩素は、胃液の中にある胃酸の大事な成分です。胃酸には、食べ物の消化促進と殺菌をする働きがあります。また、タンパク質を消化する酵素のペプシンの働きをサポートするのも、胃酸に含まれる塩素の大事な役割です。
ちなみに、塩素は「塩分」として食物に豊富に含まれているので、日々の食事から摂取できています。また、汗や尿中に排泄される特徴もあります。そのため、不足や過剰症になることはほとんどありません。
◇ 体液の浸透圧を調整する役割
塩素は、細胞外の体液中にイオンとしても存在します。体内の塩素イオンは、血液や体液のpHバランスや浸透圧を調整する役割を担っています。また、血液内の二酸化炭素の輸送にも欠かせない物質です。
◇ 神経伝達システムにおける役割
近年の研究では、塩素イオンと神経伝達システムにおけるさまざまな関連性も発見されています。
たとえば、東京医科歯科大学では、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の輸送をおこなうために、細胞内外の塩素イオン濃度が高く保たれる必要性を見出しています。
このほか、岡山大学では、神経の興奮を抑える作用のあるグリシンやGABAのシグナル伝達に関わるトランスポーターに、塩素イオンが欠かせないことを発見しているようです。
こうした研究結果に目を向けると、脳における興奮状態を正常な範囲内に抑えるために、塩素がさまざまな神経伝達物質に作用する役割を担っていることがわかります。
まとめ
塩素には、マイナスイオンや塩素分子、塩素化合物といったさまざまな種類があります。そして水道水に含まれる残留塩素と、塩化物イオンや塩素ガスはまったく異なる物質です。
日本の水道水に含まれる塩素濃度は、世界保健機関が定める数字より遥かに低く設定されています。そのため、消毒効果の高い残留塩素が残っていても、毎日飲み続けられるだけの安全性があるのです。
塩素にはこのほか、胃に入ってきた食べ物の消化促進や、体液の浸透圧を調節するといった、人間の健康に欠かせないミネラルとしての役割もあります。こうして体内でさまざまな働きをする塩素は、人間の健康維持や暮らしに欠かせない物質であるといえるでしょう。